鹿の食事とオーダー会レポート 2023/11 恵文社イベント内

鹿の食事とオーダー会レポート 2023/11 恵文社イベント内

Six coup de foudreの高見澤篤さんのジビエ革の製作。PINTでは一頭買いの製作を継続的に依頼していて、普段から定番商品として紹介しています。

一般的な皮革製品とは異なるアプローチで製作をする高見澤さん。一頭買いとパッチワークの製作や製品の紹介と販売だけでなく、もっとその製作の前後や背景をお伝えできる機会が作れたら、ということをずっと考えていました。2023年11月に開催した恵文社でのPINT POPUPイベント内で一つの形にすることができましたので紹介します。

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

「ジビエ」をテーマに、革製品とその動物のつながりと営みを感じられる企画を行いました。

滋賀県日野町で狩猟された鹿を猟師さんから一頭買いし、お肉と骨を食事でいただき、皮は植物タンニンで鞣し革にして、その革を使って高見澤さんが革製品を製作。お客さんが革を見て、どこの部位を使うか、どの口金や金具を使って、どの型の製品を作るか、選んでいただけるオーダー会です。

鹿の命。肉を食べ、皮は鞣して革にして、使う。命を全ていただく。感じる。

そんな、当たり前だけれど、今、普段は見えにくくなっていることを体感できる機会ができたらと企画しました。

オーダー会、食事と順番に紹介します。 

 

<オーダー会>

狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉という意味のジビエ。

狩猟された動物は、食肉として解体処理されます。ジビエ料理は広がってきていることもあり、肉は飲食店や販売用の食肉として扱われますが、皮はそのほとんどが廃棄されます。肉の処理が鮮度的にも最優先ですし、鞣しという、動物の「皮」を、革製品に使える「革」にする工程は狩猟とも食肉とも全く異なる工程です。家畜のように流通を前提とした仕組みとは異なりますし、これを活用されることも少なかったため、価値のないものとみなされ廃棄されるケースがほとんどでした。
 
高見澤さんは10年以上前から、この皮を活用したものづくりを続けてきました。日本各地の猟師と直接つながり、狩猟された鹿、猪、熊など野生動物の食肉の副産物としての皮を譲り受け、パートナーであるタンナー(皮革の鞣し・加工をする工場)で鞣して「革」にし、革製品を作っています。

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革
Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

PINTでは、高見澤さんの製品を主に一頭買いで展開してきました。鹿革(鳥取若桜町、北海道十勝など)を中心に、本イベント開催前時点では7頭目。普段は高見澤さんの革の在庫から選んでオーダーをしていますが、今回はPINTが猟師さんによる狩猟の段階から携わることができました。

2023年7月に滋賀県東南部にある日野町の害獣駆除により狩猟された鹿2頭の皮を、高見澤さんのパートナーのタンナーにお渡しして植物性タンニンで鞣し、ヌメ(左)と鉄媒染(右)の2種類の革を作りました。

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

 

この2頭の革をイベント期間中に展示し、高見澤さんにも東京から京都へお越しいただいて受注会を行いました。型紙や口金をご用意し、一枚の革のどこの部分を使うかも選んでいただけます。首の周り、背中、肩、お尻、足。銃痕もありますし、狩猟後に引きずることによる擦れ痕もあります。実際の革を見て触れながら、そうした狩猟の話を高見澤さんから聞いて、型紙や口金を当てて製作品をオーダーいただきました。普段は扱っていない口金や型もフルラインナップで揃い、内布の有無、金具の燻し加工や革ショルダー紐の捻りなど、細かなオプションも選べます。

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

狩猟で協力いただいたのは、滋賀県東南部にある日野町の日野猟友会の獣美恵堂(じびえどう)。今回の狩猟は、猟師のヨシザワさんとシマムラさん。普段は皮は廃棄されますが、今回は革作りのため、狩猟後に皮も綺麗に処理して、すぐに冷凍処理しタンナーに送ってくださり、良い状態で無事革にすることができました。

獣美恵堂は、今回の企画の食事を担当くださった「月麦の音(つむぎのおと)」のこだまさんからのつながり。滋賀県を拠点にする月麦の音で、地元で狩猟された鹿肉を料理に使う取組みを始めたと聞いたのは昨年のこと。このときに、食と革を繋げられる今回の企画のイメージが生まれました。

この送られた皮を鞣し加工して革製品に使えるようにするのが、高見澤さんが普段からパートナーとして依頼しているタンナー。植物タンニンで鞣し、革そのものを感じてもらえるヌメ、定番人気のブラック系のダーク色(鉄媒染)の2種類でお願いしました。革、植物タンニン鞣し、鉄媒染と、それぞれが天然で全てに個体差のあるもの。塗料ではありませんので、色を決めてそのまま色が出るようなことはありません。PINTから高見澤さんにイメージと希望を伝え、タンナーさんへの加工依頼内容ややり取りはお任せし、色々な調整や仕上げも何度か回を重ね修正しながら、完成しました。微妙なニュアンスや感覚を表現するために、一つ一つの工程に狙いと正確さが必要で、経験によるイメージから導かれるもの。今回、並走することでこれを肌で感じられたのは大きな学びでした。

出来上がった革は、吊るして触っていただけるように2週間のポップアップイベント期間中展示をして、そのうち高見澤さん在店の2日間に、オーダー会を開催。革を広げ、型を選び、どの部位を使うかを型紙を当てながら仕様を決めてゆきます。高見澤さんから、狩猟のこと、部位ごとの特性のこと、金具のことなど、いろんな話をしながら、一緒に考えます。

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革
Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

 

銃痕をあえて入れて欲しいという方や、革の表情が強い部位を選ばれる方が多くて、このオーダー会ならではでとても嬉しかったです。一般的には、傷も表情もない綺麗なものを良しとされることが多いです。単に一つの表面的な原材料として、お店で買い物をするときにそう思うのは当然です。

ただ、革というのものを根っこから、そして正面から捉えると、そういうものではないもの。革を、そのまま、そのものとして受け入れて向き合う機会はほとんどないと思います。

PINTでは、天然素材のものが持つ風合いや経年変化の美しさに、日々使う中の楽しみの大きさに価値を感じ取り組んでいるので、素材自体のありのまま、芯の部分に近づけたらと考えています。そして、それを実現されている作り手と一緒に、使う人たちに伝えたい。今回、普段の販売と紹介とは違う角度で取り組めて、幸せな時間でした。

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

  

 

<食事会>

この革製品のオーダー会だけではなく、この革の源に遡り、同じ猟師、同じ地域で獲られた鹿肉を使った食事会を開催しました。1週目はランチ、2週目はディナー。
 
ランチ、ディナーとも食事は「月麦の音」(つむぎのおと)。

「月麦の音」は、滋賀県を拠点に、ケータリングやマルシェ、料理教室などを軸に活動されています。パン、焼き菓子、料理。地のもの、季節のもの、発酵。ジャンルを飛び越え、食材の組合せ、盛付けまで、新しく鮮やかなアイディアが溢れていて、これまでもPINTではお菓子の折詰などを依頼していました。

今回のSix coup de foudreの製品を紹介するにあたって、食とつなげることができたらと思ったのは、月麦の音が地元の鹿肉を使うお話を以前聞いていたから。この食事イベントを考え、準備を進めているうちに、Six coup de foudreの高見澤さんも合流してくださり、滋賀県の鹿肉料理と鹿革製品という流れが生まれました。
 
滋賀県日野町の鹿肉、今回は部位指定ではなく、一頭買いで購入くださいました。

ランチのハンバーガーのお肉は、ハンバーグではなく、部位ごとに調理方法を変えた鹿肉が入っています。骨からは出汁を取ってスープに。

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

《LUNCH鹿肉のバーガーセット (サラダ、豆のマリネ、鹿の骨スープ付き)
《DESSERT山羊のチーズとライ麦ケーキ

 

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コーヒーとお菓子は「zawa coffee」。

ランチと食後に喫茶時間も設け、コーヒーとお菓子もご用意しました。大阪の福島にある「珈琲とたまごかけごはん」のzawa coffeeです。今回、コーヒーは、特別にzawaさんによる自家焙煎コーヒーをネルドリップでご用意くださいました(普段お店では別の焙煎豆を使用)。

コースターは、PINT一頭買いシリーズ最新7頭目の蝦夷鹿革の製作後端切れをカットしたもの。zawa coffeeの店舗でも使ってくださっています。

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革

珈琲
モカブレンド
コロンビア カフェインレス

《DESSERT
紅はるかのスイートポテト
茜卵のバスクチーズケーキ
橙卵のブロンディ
茜卵のプリン

 

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ディナーは、まさに鹿肉のフルコース。

恵文社COTTAGEでアンティークの家具を並べて、15名で一つのテーブルを囲んでいただきました。高見澤さんから狩猟や革のこともお話しいただき、テーブルには滋賀の山から採ってきた草木と共に、鹿の料理が入れ替わり並びました。

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革
Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革
《welcome drink》松葉サイダー

《里山によせてサラダ》焼き柿と姫りんごのコンポート ~野火のように~ 干しえのきとさつまいものオーブン焼き・グリーンサラダ
《ブルスケッタ》滋賀県産小麦使用のバケット 鹿パテとパンコントマテ
《グリーンソーセージ》ほうれん草と鹿首肉 レンズ豆 スパイス
《鹿肉ちらし寿司》
《八丁味噌仕立て すね肉シチュー》
《鹿背ロースのロースト》松ぼっくりソースとともに
《食後のデザートと飲み物》栗蒸し羊羮 カフェインレス珈琲 コロンビア

 

Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革
Six coup de foudre と革 高見澤篤 PINTオーダー会恵文社イベント内鹿革
 
 
とても温かな時間でした。鹿にも、そこから繋がり一緒にこの時間を共にできた皆様にも、本当に感謝です。
 
オーダー会でご注文くださったお客様分の製作が完了し、順次発送、お渡ししています。
 
後日、PINT店頭とwebでも、今回の2頭の鹿革(オーダー会受注分以外の部位)から製作した商品を販売予定です。
 

恵文社でのPOPUPイベントは、来年2024年も5月と12月に開催を予定しています。

  

写真:Six coup de foudre・zawa・PINT