自在鉤(じざいかぎ) -日本の民具-

本日は民具シリーズ。

今日ご紹介するのは、「自在鉤(じざいかぎ)」です。

自在鉤といっても、すぐに思いつく方は少ないはず。

でも、見れば分かるかもしれません。

そう、これは囲炉裏とセットで使われる道具なのです。



囲炉裏は、暖をとり、明かりをとり、煮炊きもして、家族が集まる場所。
まさに日本家屋の暮らしのおへそです。

この囲炉裏の上に鍋やら鉄瓶がかかっているイメージはある方も多いのではないでしょうか?
これらをかけているのが、この自在鉤です。

囲炉裏を暮らしのおへそたらしめる、囲炉裏の右腕です。



この自在鉤、写真だと伝わりにくいのですが、簡単に上下調節できるすぐれものなのです。

縄の先に鍋などをひっかける鉤がついているのですが、この途中に高さを調節できる構造が入っています。
竹筒とテコ木で調節するもの、止め金で調節するもの、また素材は木だったり鉄製だったり、様々。
いずれもすごくシンプルなつくりですが、これによって上下調節が可能になります。

で、上下調節により何が良いかというと、煮物などの調理のときに、
火自体を調節するのではなく、鍋の高さを調節したのです。
もちろん今のようにコンロのつまみで強火弱火に調節できるわけではないので、すごく合理的なシステム。

加えて、自在鉤のおもしろさは、そのデザインもチーフです。
テコになる横木のデザインがさまざまなのです。



一番よく見るのは、この写真のように、魚のもの。
これは、鯛や鯉など縁起物を兼ねる意味もありますが、
火を操る囲炉裏ということで、火事など起こさぬようにという願いも込められて、
魚や海もチーフのものが多いらしいです。
また、火の神への捧げものという説もあるよう。
その他、扇子や打ち出の小槌などの縁起物もたくさんです。

暮らしの必需品でありながらも、デザインを盛り込むところが小粋です。

暮らしを楽しもうとする気持ちは、昔から変わらないものなのですね。


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