PINTが考えるものづくりについて、ブログにも書いてみようかと思います。ときどき更新してゆきます。
「PINTについて」にも書いていますが、ところどころを詳しく、テーマ別に分けて書く予定です。内容は普段、僕が職人の皆さんや、一緒にPINTを作っているパートナーや友人のみんな、イベントでお会いできたお客さんと話しているようなことです。今は基本的にはwebで販売をしているので、なかなかお客さんとお会いする機会も少ないため、どういった視点と思いでPINTのものやショップができているか、知っていただく手がかりの一つになればと思います。これまでにないくらい長いので、興味のある方に読んでいただけたらと思います。初回である今回は、PINTの根っこの部分から。ということで、最初のテーマはこちらです。
『現代の民具を作る』
これは、PINTをはじめた理由です。この思いに至るまでをお伝えしたいと思います。
ざっくりした流れですが、作り手、売り手、使い手があってものが流通します。昔々は、作り手=使い手という時代が続きました。例えば、農家が春から秋は農作業を行い、冬の農閑期には稲わらや家の周りで採れる材料を使って自分たちで使う道具を作るという生活。僕は地方の産地に行くときに、民俗資料館に行くのが好きなのですが、こういったところには昔の民家で使われた道具が並んでいます。「民具」といわれるものです。お椀などの日用品もあります。装飾もない、本当のただの木の椀なのですが、そういったものが、静かに、強く、とても美しいと感じます。毎日使う道具として考えられ作られた、飾らないかたち。そして、長年使われ続けたことによって、素材も良い具合に変化していました。触れられ使われることで人の手の力も宿ったのかもしれません。
今は、たくさんのものがあるけれど、こういうものはあんまりないなと思いました。webも流通の発展もあり、それこそ数え切れないほどの商品を探し、買える時代だけれど欲しいものがあまりない。出会いは増えるばかりだけど、不思議とぐっとくるものと出会えない。マーケティングという面からみれば、飽和したマーケットで「ニッチ」「差別化」「斬新さ」を競い、製作が分業化した必然の結果として「デザイナーの仕事としてのデザイン」的なものが生まれ、供給者側からみれば「今のマーケットでいかに売りやすいか」を目指して、ものが生み出され続けました。
もちろんその中に良いものもたくさんあるとは思いますが、僕個人の体験だと、しっくりくるものが少なかったんです。ありすぎて出会いにくい、というのもあるかと思います。
これまで、雑貨の商社で働いていたこともあり、ものの流れや業界的な潮流も眺めてきました。今の現状は、これまでの時代の流れも含めた構造的な問題の一つの結果で、携わる人たちに問題があるのではないと思っていますが、あまりわくわくしませんでした。ここ最近は特に、新たな良い兆しはたくさんありますが、これまでの主流とは違ったアプローチでものづくり、ものを流通する形を試してみたいと思いました。
昔と今の一番根っこの違いは、使い手ファーストか、売り手ファーストなのか。昔は、自分で使うためだけなので完全に使い手ファーストです。ファーストというよりも、他に存在しない。飾るためでもなく、売るためでもなく、単に使いやすい、使いたいものを作りました。今は流通構造上、売れなければ始まらないので、売り手ファーストという面が拭えません。作り手は売り手が求めるものを作るのが近道ですし、売り手は売りやすいものを仕入れたい。使い手は、僕も含めてですが今自らの手でものを作るというのは無理なので、売り手が提供するものから選ぶ。こうなると当然、「販売」がゴールとならざるを得ません。特にマスマーケットに近づけば近づくほど、合理的に動けば動くほど、この傾向は強くなります。結果、流通向けの似通った製品が増え続けたといえるのかもしれません。
PINTを作ったきっかけは、マーケットに向いて販売をゴールにするのではなく、使い手目線のものを作りたいという思いでした。良い意味でマーケットや流通を無視して、使い手として使いたいもの、素材の特長、それを生かす製法、それだけでものを作る。そうすれば、現代流通では姿が見えなくなってしまった「もの」ができるのではないかと考えました。
いわば、「現代の民具」です。これを作りたいです。
PINTが作るこの「現代の民具」とは、こんな性格のものです。
1)今の時代の中で、毎日使えて、長く使える道具
2)ものを考えるのは、使い手。暮らしのプロ=私たち一般の人
3)作るのは腕の確かな職人
1つずつ詳しく見ていきます。
1)今の時代の中で、毎日使えて、長く使える道具。
まず、今の時代というポイント。日本の歴史は面白く、大陸からの文化を継承しつつも、島国で極東のどん詰まりという地理的な環境もあり、長い年月をかけて、独自の文化が作られてきました。明治維新から始まり戦後特に、海外の文化を輸入してきました。和服から洋服になり、食事は洋風どころか世界中の食を制覇しようかというほどの貪欲な吸収ぶり。家は日本家屋から、フローリングと和室がミックスした作りに変わりました。土間は消えましたが、玄関では靴を脱いで家に上がる。輸入しながらも、譲れない部分もあり、日本流にミックス、ローカライズするという現象が起きます。このカオス具合は、面白い魅力の一つと思います。他の例だと、日本の家は、床生活とテーブル生活が同居し、テーブル生活においても家が狭く天井も低いため、ダイニングテーブルの高さも低かったりします。こういったリアルな一つ一つをぼんやりとでも捉えながら、今の時代の中の道具を考えたいと思います。
また、PINTが作るのは民具という文字通り、雑貨というよりも、道具。暮らしの道具を作るので、登場回数の多いことを重要です。
加えて、長く使えるという点。マーケティング的には消耗品やシーズンごとの買い替え需要があるものが最強ですが、それは大分作り手と売り手都合の話。僕は、個人として単純に気持ち良いので、良いものを長く使いたいと思います。長く使うには、劣化しない素材であることが必要です。長く使える素材で、メンテナンスができて、使うほどによく馴染み育つ素材。プラスチックではなく、天然素材ということになります。木、漆、リネン、藍、草木、土、鉄。天然素材はすごい(流通上では安定せず嫌われますが)。だから、PINTは天然素材にこだわります。使うたびに劣化しないから、使うたびに気持ち良い。そして、使ってときどき手入れすると、風合いもよくなって素敵な経年変化が。使うたびに楽しいんです。こんなものだったら、欲しいなと思います。
2)ものを考えるのは、使い手。生活のプロ=僕たち一般の民。
デザイナーでもバイヤーでもなく、生活のプロである僕たちが作るのが民具。
毎日の暮らしの中で使う道具ならば、毎日の暮らしをする人が考えるのが近道です。1)ではここ数十年のスタイルという大きさで書きましたが、もっと最近で言うと、ライフスタイルは多様化し、パーソナライズされています。以前のように、3種の神器が全国民に売れるのではなく、「今年は○○調が流行」という時代でもなければ、絶対的なカリスマがいるのでもなく、一人一人が自分の好みにミックスして暮らしを作っています。では「オーダーメイドが最強か?」となりがちですが、これはコスト面でも、継続性としても最善ではないと思っています。多様化して全てを束ねるのではなく、個人的なスタイルや性別を良い意味で超えて、使われ続けるものを作ります。
ただ、暮らしの中で「これあったらいいな」という視点だけでは、単なる便利グッズが生まれてくるだけです。PINTでは、「みんなのどうぐ」プロジェクトで、素材や製法をみっちり勉強し共有した上で製品企画を行う取り組みをしています。「みんなのどうぐ」については、また別の回で詳しく紹介します。
3)作るのは腕の確かな職人。
実際、昔のように国民総作り手環境ではないので、製作は職人に依頼します。直接産地を訪問して、腕も確かでPINTの思いにも乗ってくださった頼りになる職人たちです。あくまで使って楽しい、気持ち良いものを目指して、クオリティ高いものを作りたいと思います。
1)で触れた天然素材を知り尽くす職人が、伝統的な製法で作ります。長く続いてきた製法には、昔の人が世代を超えて絶えずアップデートを重ねてきた知恵の結晶です。素材を生かしきるためにも、職人にも一緒に考えていただき、製作をお願いしています。
こんなことを考えながら、「現代の民具」を作ってゆきます。雑貨業界にもいわゆるマーケットにも向いていないまま、マイペースにものづくりをしています。もちろん販売することが前提ですが、webやイベントを通じた、使い手と1対1で向き合える流通がメインです。
PINTを始めて5年。このペースで製品企画をしたりしているので、歩みはゆっくりですが、アイテムラインナップを眺めると輪郭がくっきりしてきたように思います。今年も新しい製品企画がいくつか進んでいますが、こうして考えを整理しながら進めてゆきたいと思います。
長文になりましたが、読んでいただきありがとうございました。
今回はPINTが目指すものづくりの、根っこの部分をじっくり書いてみました。次回は、もう少し具体的にものづくりに焦点を当てて書きたいと思います。
PINT 中地
「PINTについて」にも書いていますが、ところどころを詳しく、テーマ別に分けて書く予定です。内容は普段、僕が職人の皆さんや、一緒にPINTを作っているパートナーや友人のみんな、イベントでお会いできたお客さんと話しているようなことです。今は基本的にはwebで販売をしているので、なかなかお客さんとお会いする機会も少ないため、どういった視点と思いでPINTのものやショップができているか、知っていただく手がかりの一つになればと思います。これまでにないくらい長いので、興味のある方に読んでいただけたらと思います。初回である今回は、PINTの根っこの部分から。ということで、最初のテーマはこちらです。
『現代の民具を作る』
これは、PINTをはじめた理由です。この思いに至るまでをお伝えしたいと思います。
ざっくりした流れですが、作り手、売り手、使い手があってものが流通します。昔々は、作り手=使い手という時代が続きました。例えば、農家が春から秋は農作業を行い、冬の農閑期には稲わらや家の周りで採れる材料を使って自分たちで使う道具を作るという生活。僕は地方の産地に行くときに、民俗資料館に行くのが好きなのですが、こういったところには昔の民家で使われた道具が並んでいます。「民具」といわれるものです。お椀などの日用品もあります。装飾もない、本当のただの木の椀なのですが、そういったものが、静かに、強く、とても美しいと感じます。毎日使う道具として考えられ作られた、飾らないかたち。そして、長年使われ続けたことによって、素材も良い具合に変化していました。触れられ使われることで人の手の力も宿ったのかもしれません。
今は、たくさんのものがあるけれど、こういうものはあんまりないなと思いました。webも流通の発展もあり、それこそ数え切れないほどの商品を探し、買える時代だけれど欲しいものがあまりない。出会いは増えるばかりだけど、不思議とぐっとくるものと出会えない。マーケティングという面からみれば、飽和したマーケットで「ニッチ」「差別化」「斬新さ」を競い、製作が分業化した必然の結果として「デザイナーの仕事としてのデザイン」的なものが生まれ、供給者側からみれば「今のマーケットでいかに売りやすいか」を目指して、ものが生み出され続けました。
もちろんその中に良いものもたくさんあるとは思いますが、僕個人の体験だと、しっくりくるものが少なかったんです。ありすぎて出会いにくい、というのもあるかと思います。
これまで、雑貨の商社で働いていたこともあり、ものの流れや業界的な潮流も眺めてきました。今の現状は、これまでの時代の流れも含めた構造的な問題の一つの結果で、携わる人たちに問題があるのではないと思っていますが、あまりわくわくしませんでした。ここ最近は特に、新たな良い兆しはたくさんありますが、これまでの主流とは違ったアプローチでものづくり、ものを流通する形を試してみたいと思いました。
昔と今の一番根っこの違いは、使い手ファーストか、売り手ファーストなのか。昔は、自分で使うためだけなので完全に使い手ファーストです。ファーストというよりも、他に存在しない。飾るためでもなく、売るためでもなく、単に使いやすい、使いたいものを作りました。今は流通構造上、売れなければ始まらないので、売り手ファーストという面が拭えません。作り手は売り手が求めるものを作るのが近道ですし、売り手は売りやすいものを仕入れたい。使い手は、僕も含めてですが今自らの手でものを作るというのは無理なので、売り手が提供するものから選ぶ。こうなると当然、「販売」がゴールとならざるを得ません。特にマスマーケットに近づけば近づくほど、合理的に動けば動くほど、この傾向は強くなります。結果、流通向けの似通った製品が増え続けたといえるのかもしれません。
PINTを作ったきっかけは、マーケットに向いて販売をゴールにするのではなく、使い手目線のものを作りたいという思いでした。良い意味でマーケットや流通を無視して、使い手として使いたいもの、素材の特長、それを生かす製法、それだけでものを作る。そうすれば、現代流通では姿が見えなくなってしまった「もの」ができるのではないかと考えました。
いわば、「現代の民具」です。これを作りたいです。
PINTが作るこの「現代の民具」とは、こんな性格のものです。
1)今の時代の中で、毎日使えて、長く使える道具
2)ものを考えるのは、使い手。暮らしのプロ=私たち一般の人
3)作るのは腕の確かな職人
1つずつ詳しく見ていきます。
1)今の時代の中で、毎日使えて、長く使える道具。
まず、今の時代というポイント。日本の歴史は面白く、大陸からの文化を継承しつつも、島国で極東のどん詰まりという地理的な環境もあり、長い年月をかけて、独自の文化が作られてきました。明治維新から始まり戦後特に、海外の文化を輸入してきました。和服から洋服になり、食事は洋風どころか世界中の食を制覇しようかというほどの貪欲な吸収ぶり。家は日本家屋から、フローリングと和室がミックスした作りに変わりました。土間は消えましたが、玄関では靴を脱いで家に上がる。輸入しながらも、譲れない部分もあり、日本流にミックス、ローカライズするという現象が起きます。このカオス具合は、面白い魅力の一つと思います。他の例だと、日本の家は、床生活とテーブル生活が同居し、テーブル生活においても家が狭く天井も低いため、ダイニングテーブルの高さも低かったりします。こういったリアルな一つ一つをぼんやりとでも捉えながら、今の時代の中の道具を考えたいと思います。
また、PINTが作るのは民具という文字通り、雑貨というよりも、道具。暮らしの道具を作るので、登場回数の多いことを重要です。
加えて、長く使えるという点。マーケティング的には消耗品やシーズンごとの買い替え需要があるものが最強ですが、それは大分作り手と売り手都合の話。僕は、個人として単純に気持ち良いので、良いものを長く使いたいと思います。長く使うには、劣化しない素材であることが必要です。長く使える素材で、メンテナンスができて、使うほどによく馴染み育つ素材。プラスチックではなく、天然素材ということになります。木、漆、リネン、藍、草木、土、鉄。天然素材はすごい(流通上では安定せず嫌われますが)。だから、PINTは天然素材にこだわります。使うたびに劣化しないから、使うたびに気持ち良い。そして、使ってときどき手入れすると、風合いもよくなって素敵な経年変化が。使うたびに楽しいんです。こんなものだったら、欲しいなと思います。
2)ものを考えるのは、使い手。生活のプロ=僕たち一般の民。
デザイナーでもバイヤーでもなく、生活のプロである僕たちが作るのが民具。
毎日の暮らしの中で使う道具ならば、毎日の暮らしをする人が考えるのが近道です。1)ではここ数十年のスタイルという大きさで書きましたが、もっと最近で言うと、ライフスタイルは多様化し、パーソナライズされています。以前のように、3種の神器が全国民に売れるのではなく、「今年は○○調が流行」という時代でもなければ、絶対的なカリスマがいるのでもなく、一人一人が自分の好みにミックスして暮らしを作っています。では「オーダーメイドが最強か?」となりがちですが、これはコスト面でも、継続性としても最善ではないと思っています。多様化して全てを束ねるのではなく、個人的なスタイルや性別を良い意味で超えて、使われ続けるものを作ります。
ただ、暮らしの中で「これあったらいいな」という視点だけでは、単なる便利グッズが生まれてくるだけです。PINTでは、「みんなのどうぐ」プロジェクトで、素材や製法をみっちり勉強し共有した上で製品企画を行う取り組みをしています。「みんなのどうぐ」については、また別の回で詳しく紹介します。
3)作るのは腕の確かな職人。
実際、昔のように国民総作り手環境ではないので、製作は職人に依頼します。直接産地を訪問して、腕も確かでPINTの思いにも乗ってくださった頼りになる職人たちです。あくまで使って楽しい、気持ち良いものを目指して、クオリティ高いものを作りたいと思います。
1)で触れた天然素材を知り尽くす職人が、伝統的な製法で作ります。長く続いてきた製法には、昔の人が世代を超えて絶えずアップデートを重ねてきた知恵の結晶です。素材を生かしきるためにも、職人にも一緒に考えていただき、製作をお願いしています。
こんなことを考えながら、「現代の民具」を作ってゆきます。雑貨業界にもいわゆるマーケットにも向いていないまま、マイペースにものづくりをしています。もちろん販売することが前提ですが、webやイベントを通じた、使い手と1対1で向き合える流通がメインです。
PINTを始めて5年。このペースで製品企画をしたりしているので、歩みはゆっくりですが、アイテムラインナップを眺めると輪郭がくっきりしてきたように思います。今年も新しい製品企画がいくつか進んでいますが、こうして考えを整理しながら進めてゆきたいと思います。
長文になりましたが、読んでいただきありがとうございました。
今回はPINTが目指すものづくりの、根っこの部分をじっくり書いてみました。次回は、もう少し具体的にものづくりに焦点を当てて書きたいと思います。
PINT 中地